おっさんの徒然日記

聖教新聞に掲載された記事を紹介するブログです。

〈スタートライン〉フットリンガル代表 タカサカモトさん  令和5年5月22日

聖教新聞 令和5年5月21日付け

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今の失敗がハッピーエンドの伏線かもしれない。――そう思ったっていいんじゃないですか。

 

東京大学に進学、メキシコでタコス屋見習い、鳥取で“寺子屋”を運営――国内外でちょっと変わったキャリアを経て、現在は海外を目指すプロサッカー選手のサポート事業を手掛けるタカサカモトさん。今年、これまでの経歴をつづった著書『東大8年生 自分時間の歩き方』(徳間書店)を発刊しました。失敗を恐れない勇猛果敢なタイプかと思いきや「実は保守的で、失敗したくないんです」と。その真意を聞きました。

裸一貫から
 ――郷里の鳥取から東京大学に進学するも、3度休学。在学中にはメキシコに留学したそうですね。
 
 18歳で意気揚々と上京したんですけど、東京の時間の速さに戸惑ったり、家族の病気もあったりして、人生に迷ってしまいました。
 もんもんとしていた自分を何とかしたいと、思い切って在学6年目の年にメキシコへ留学。そこで出会ったのが、タコス屋の屋台をしていたレオでした。
 その地域は観光客が絶対に立ち寄らないような、メキシコの下町風情ただよう街で、一遍にその世界に魅了されました。それで留学を途中でやめて、自費でメキシコに再渡航。レオに頼みこんで見習いとして働かせてもらったのです。
 
 ――異国の地で、タコス屋見習いとして働く……。勇気のある行動だと思います。
 
 確かに、飛び込んでもやっていけるという根拠のない自信はありました(笑)。その一方で、日本だと“東大”というだけで良くも悪くも特殊な視線を浴びやすいと感じていて、「所属先ではなく、自分自身に対する信頼はどれだけあるのか」という不安が付きまとっていました。
 裸一貫から始めて、どこまで信用を勝ち取れるのか挑戦したい。勇気といえるかもしれませんし、若さゆえの勢いもありましたが、それ以上に「確かな自信を持てないこと」への不安の方が大きかったのが正直なところです。
 でも結局はタコスが好きだったんだと思います(笑)。
 
 ――最終的には8年かけて大学を卒業。その後はブラジルへの移住を考えていたそうですね。
 
 そうなんです。実際に現地にも行ったのですが、直前にビザ取得の要件が厳しくなって、さらに思っていた仕事先も見つからず、移住を断念せざるを得ませんでした。
 それからは一転、地元の鳥取に帰って、縁あって“寺子屋”を始めることになりました。近所に住む小学生から高校生に勉強を教えたり、一緒に調べたりする居場所づくりのようなことです。
 僕のキャリアを見ると、とっぴなことをしているように思われますが、むしろ“取り返しのつくうちに小さな失敗を経験しておこう”という、ある意味で保守的な考え方なんです。
 生意気を言うようですが、完璧な人間なんていません。誰だって多かれ少なかれ失敗はしますよね。だったら人生という長い目で見た時に、20代の若いうちに失敗を繰り返しておけば、失敗の仕方そのものが洗練されるんじゃないか。僕はそう考えて行動してきました。
 失敗を決してネガティブに捉えずに、「貴重な失敗を重ねたという成功体験なんだ」ぐらいに思っています。
 
 ――とても前向きな考え方ですね。
 
 人生を一つの物語と考えてみたら、失敗も何か意味のある伏線だと思っています。ハッピーエンドの物語でも、途中で必ずアンハッピーな出来事が起きるじゃないですか。
 もちろん本当につらい時は無理にポジティブに考える必要はありません。その上で、生きている限りは過去の失敗に価値を見いだすことができますし、そういう希望は誰にでも平等にあると感じています。
 僕の経験でいえば、ブラジル移住はかないませんでしたが、その時の出会いが縁となってブラジルのサッカークラブの広報担当になり、選手が来日した時はアテンド通訳を務めることもできました。

経験を生かして
 ――現在は主にプロサッカー選手の海外挑戦をサポートする「フットリンガル」という事業を行っています。
 
 「フットリンガル」では語学習得を活動の軸にしています。選手が成長を実感しやすいですし、移籍先でコミュニケーションを取るためにも言葉は必要ですからね。
 それに加えて、選手が海外の文化に適応するための異文化コミュニケーション学習のサポートなども行っています。
 ある日本トップクラスの選手は、移籍する国の歴史を学んでいました。また別の選手は基礎的な英文読解を徹底的にやるなど、内容は人それぞれです。
 大事にしているのは、選手自身の視野や知的好奇心が自然と広がっていくこと。そのために、僕がこれまで経験してきた海外生活や、教育の経験を生かすことができていると感じています。
 
 ――本年2月には、自身の来し方をつづった著書『東大8年生 自分時間の歩き方』(徳間書店)を出版されました。
 
 東大に8年間いたので、当時から、いつかこのタイトルで本を出したいと胸に秘めていました(笑)。これまでに出会いを結んだすてきな人のことや、見てきた景色をシェアしたい。そんな思いでこの本を作りました。
 一言では言い表せないような感情や思い出、それこそタコスの魅力も(笑)、この272ページの本を通して感じてもらえたら、うれしいです。

 1985年、鳥取県生まれ。東京大学文学部卒業。在学中にメキシコでタコス屋見習い、卒業後にブラジルのサッカークラブ広報などを経て、現在は海外での活躍を志すプロサッカー選手などへ語学、異文化コミュニケーション等を教える「フットリンガル」事業を展開する。本年2月に『東大8年生 自分時間の歩き方』(徳間書店)を発刊。