おっさんの徒然日記

聖教新聞に掲載された記事を紹介するブログです。

〈地域を歩く〉 岩手県盛岡市①

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世界が見つめる栄えの都
郷土に脈打つ挑戦の息吹

 

 それぞれの地域には、その地にしかない歴史があり、魅力があり、誇りがあります。日本の各地を訪ね、その地で生き抜く学会員を追う連載「地域を歩く」。今回は、岩手県盛岡市が舞台です。

 本年1月、米ニューヨーク・タイムズ紙が「2023年に行くべき52カ所」を発表した。世界の名だたる都市が並ぶ中、ロンドンに続き、2番目に紹介されたのは、岩手県盛岡市だった。
 東京や大阪といった大都市でもなければ、人口規模も東北で5番目と決して大きな都市でもない。
 なぜ、この地が世界から注目されるのか――。その答えを探るべく、盛岡を訪ねた。

 JR盛岡駅を出て取材先へ急ぐ道中、目を奪われる光景があった。色彩豊かな花々が咲く河川敷の背後にそびえる秀峰・岩手山だ。歩けば汗ばむ5月にあっても、頂には雪が残り、涼しげな雰囲気を醸し出していた。
 「絶景でしょう」と迎えてくれたのは千葉康則さん(本部長)。聞けば、岩手山は“南部片富士”の異名を持ち、この地のシンボルだという。
 盛岡の自然の魅力は、それだけではない。“杜と水の都”と称され、一級河川北上川のほか、雫石川、中津川、簗川という四つの清流が市内に流れ込み、大地を潤す。市役所のそばを流れる中津川では、アユやヤマメが捕れるほか、秋になるとシャケが遡上することでも知られる。
 「県庁所在地で、こんなに川がきれいな場所は、そうはありません」
 千葉さんは、県内の釣り人のマナー向上を図る岩手県釣りインストラクター連絡機構の代表。河川の清掃活動も実施し、今月15日には中津川でアユの放流も行ったという。
 「この大好きな郷土の自然を、子どもたちの世代に残したい。それが私の夢です」と千葉さん。その瞳は、少年のように輝いていた。

 「ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな」と詠んだのは、この地に生まれた詩人・石川啄木である。
 盛岡は、教育者・新渡戸稲造国語学者金田一京助らも輩出してきた「文化の街」として知られる。
 また、江戸時代から栄えた城下町。当時から続くという雑貨商をはじめ、染物店や古民家を改修した個性豊かな店が軒を連ねる。街を歩けば、コーヒーの香りが漂い、ジャズの音色が聞こえてくる。
 「雄大な自然にも囲まれ、詩でも詠みたくなりませんか」と語りかけてきたのは、中村雄幸さん(副本部長)。イラストレーターとして、大手出版社の書籍の表紙画・挿画、演劇の舞台美術などを手がける。
 盛岡市で愛唱歌が公募された40年ほど前には「啄木の青春の街 盛岡に」という楽曲を作詞・作曲し、最優秀賞に。現在は動画投稿サイトで、地域の魅力を伝える自作の歌なども発信する。
 「ここの空気に触れていると、創作意欲が湧いてくるんです。自分を表現できる場にあふれているのが、盛岡の魅力です」と中村さん。芸術の力で地域に活力を送る。